かつて、遠い小さな村に、ユーラという名の少女が住んでいた。
ユーラは幼い頃から色彩に魅了されていた。
彼女は村の風景や花々を見ては、心の中でそれらを描くことを夢見ていた。
一方で、村の伝統と期待は、彼女に別の未来を刷り込んでいた。
女性の役割は家庭を守ること、子供を育てること、と教えられ、ユーラもそれが自分の運命だと思い込んでいた。
加えてその頃、この村では、女性が芸術に生きることは奇異なこととされていた。
あるとき、彼女は、村に訪れた行商人が色鉛筆を売っているところを見つけた。
憧れていた道具を目の前にした彼女は、
周りに見つからないように、何とか色鉛筆を手に入れ、
屋根裏の部屋で、隠れて絵を描き始めた。
彼女は絵を描き続ける中で、
胸の内側で、何かパズルのピースがはまっていくような心地よさを感じていた。
しばらく、そうした日々を過ごしていたある日、
ユーラは描いた絵に夢中になっていて、
父親が帰ってくる音を聞き逃していた。
そして、彼女の秘密が父親に発見されてしまう。
父親は、芸術に生きることを奇異と見なす村の伝統を重んじ、ユーラの色鉛筆を一本ずつ折り始めた。
彼女の心の中では嵐のように感情が吹き荒び、内側に抱えきれなくなったそれらは、涙として零れ落ちた。
そんな頃、時を同じくして、間の悪いことに、村の若者たちはユーラに求婚した。
しかし、彼女はいつも心ここにあらずという様子だった。
結婚を前提とした会話の中でさえ、彼女の心は常に絵の世界に飛んでいた。
それからしばらくして、著名な画家が村に訪れた。
ユーラは彼の絵に心を奪われた。
彼の作品は、彼女の内に秘めた情熱を一層燃え上がらせた。
画家との短い会話の中で、ユーラは自分の才能を初めて他人に認められ、彼女の心には新たな希望の火が灯った。
この出会いがきっかけで、彼女は画家という生き方に強く惹かれていった。
しかしながら、村の人々は彼女の夢を理解できなかった。
当然、画家になることを諦め、結婚するよう圧力をかけた。
ユーラは長い間、自分の夢と村の期待との間で葛藤した。
ある晩、彼女は自分の心の声に耳を傾けた。
「わたしは絵を描きたい」
彼女は、明確に内なる願いを聴いた。
知らぬ間に眠りについていた彼女は、
風に揺れていた小さな火が、
風を受けてさらに燃え上がっていく、そんな夢をみた。
翌る日、彼女は、勇気を出して、村を出た。
例の画家の元を訪れ、修行を始めたのだ。
村の人々からの反発は多かったが、ユーラは自分の道を信じ、一歩一歩前に進んだ。
彼女の旅は困難であったが、彼女は絵を通して自分自身と対話し、自分の才能を磨き上げていった。
数年後、ユーラは故郷の村に戻り、そこで彼女の作品が展示されることになった。
展示会の日、ユーラの絵が村の広場に飾られた。
彼女の絵は、村の風景、生活の喜び、季節の変化、そして村人たちの日常を捉えたもので、見る人々をその場所と時間へと誘った。
彼女の絵の中には、彼女自身の成長の物語が込められていた。
村人たちは、ユーラの絵を通じて、彼女が旅で学んだこと、感じたこと、そして見たものを共感し、彼女の成長を感じ取った。
多くの村人が、彼ら自身が知らなかった村の美しさに気付き、感謝の意を表した。
展示会の後、その夜、村の広場の中心で宴会が催された。
村人たちと歓談しているユーラの隣に、幼い少女が来て、目を輝かせながら、
「この絵はどうやって描いたの?」と楽しそうにきいてきた。
その場に、この少女に奇異な目を向ける大人は一人もいなかった。
彼女は、バックにしまっていた色鉛筆のセットを取り出して、
「これを使うんだよ」と言って、少女に手渡した。
ユーラは涙と笑みを浮かべながら、静かに祝杯をあげたのであった。