海揺録

自律とか、自由とかが、たぶんテーマです。以前は、精節録というブログ名でした。

「奴隷と腕輪」

昔、ある王国では、奴隷の首輪を用いて、

奴隷の品質を一目で分かるようにしていた。

 

白銀、金、銀、銅、ダイヤモンド、など、

素材による違いはもちろんのこと、

装飾や、紋章など、さまざまな工夫が施されていた。

 

王国の思惑は、上手く機能した。

奴隷たちは、その世代を経るごとに、

自らの首輪の価値を高めることに強い執着を抱くようになった。

 

彼らは首輪のために、一所懸命に働いた。

 

次第に、この価値観に歪みを感じる者の数は減り、

首輪が自分のアイデンティティとなる者が増えた。

 

あるとき、視察に来た隣国は、

奴隷たちの懸命に働くその様を見て、

そこから気づきを得た。

 

彼らは、装飾だけでなく、

さらに一工夫を加えた腕輪のようなものを自国に流通させた。

 

瞬く間に、その腕輪は世界中に広がった。

 

その腕輪の中心には、短い針と長い針が付いており、

それが日の出と日の入りを教えてくれた。

奴隷のリーダーたちは、好んでこの機能を用い、遅刻を罰した。


さらに時を経て、王たちはふと気がつく。

 

もはや、腕輪など与えなくとも、

奴隷たちは、見えない鎖で、

自らを自発的に縛り上げているということに。

 

 

時はさらに経った。

さまざまな王国は民衆によって打倒され、

民衆主導の社会が広がった。

 

 

しかし、皮肉なことに、

例の時を刻む腕輪は、一層、流通を強めた。

 

未だに、ステータスを象徴し、

人々の意識に制約を課している。

 

そして、このために喜んで働く人々は、多い。