昔、ある王国では、奴隷の首輪を用いて、
奴隷の品質を一目で分かるようにしていた。
白銀、金、銀、銅、ダイヤモンド、など、
素材による違いはもちろんのこと、
装飾や、紋章など、さまざまな工夫が施されていた。
王国の思惑は、上手く機能した。
奴隷たちは、その世代を経るごとに、
自らの首輪の価値を高めることに強い執着を抱くようになった。
彼らは首輪のために、一所懸命に働いた。
次第に、この価値観に歪みを感じる者の数は減り、
首輪が自分のアイデンティティとなる者が増えた。
あるとき、視察に来た隣国は、
奴隷たちの懸命に働くその様を見て、
そこから気づきを得た。
彼らは、装飾だけでなく、
さらに一工夫を加えた腕輪のようなものを自国に流通させた。
瞬く間に、その腕輪は世界中に広がった。
その腕輪の中心には、短い針と長い針が付いており、
それが日の出と日の入りを教えてくれた。
奴隷のリーダーたちは、好んでこの機能を用い、遅刻を罰した。
さらに時を経て、王たちはふと気がつく。
もはや、腕輪など与えなくとも、
奴隷たちは、見えない鎖で、
自らを自発的に縛り上げているということに。
時はさらに経った。
さまざまな王国は民衆によって打倒され、
民衆主導の社会が広がった。
しかし、皮肉なことに、
例の時を刻む腕輪は、一層、流通を強めた。
未だに、ステータスを象徴し、
人々の意識に制約を課している。
そして、このために喜んで働く人々は、多い。