どこかの深い森の中に不思議な庭園があるという。
その庭園には、二つの異なる植物が植えられているらしい。
一つは「自己の木」と呼ばれ、
もう一つは「他者の花」と名付けられている。
「自己の木」は、強くて堅固な根を持つ。
適切な水やりと手入れが必要で、この木が健康であれば、
庭園全体が安定し、他の植物も育ちやすくなる。
一方、「他者の花」は、
自己の木が蓄えた養分を使って美しく咲く。
そのため、花が過剰に養分や水を吸い上げると、
根元の「自己の木」が栄養不足になり、
やがては庭園全体のバランスが崩れてしまう。
ある日、庭の主は気が付く。
花は見事に咲いているが、木は枯れ始めていることに。
翻ると、他者の花にばかり水やりをして、
自己の木を疎かにしていたのだ。
その日、庭園の中心に聳える木に手を添えて、
庭園の心と向き合った。
右手に剪定鋏を握る。
彼は、不要になった観念をひとつひとつ剪定し始めた。
数年後、その庭園は、
調和と豊かさを象徴するかのような美しさをたずさえていた。